公正証書遺言と自筆証書遺言、どちらが良い?費用・手間・確実性を徹底比較
はじめに
終活で最も効果が大きいのが「遺言書の作成」です。しかし、どの形式で作成すれば良いのかで迷う方が多いもの。本記事では、一般的に使われる2つの遺言書「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」を徹底比較し、ケース別に選ぶべき形式をご提案します。
そもそも遺言書とは
遺言書は、ご自身の財産をどう分けるかを法的に指定する文書です。エンディングノート(法的効力なし)とは別物で、以下の効力があります。
- 法定相続分と異なる分け方を指定できる
- 特定の人に特定の財産を残せる(「遺贈」)
- 相続から特定の人を除外できる(遺留分には注意)
- 子の認知や後見人の指定が可能
日本で主に使われる遺言書は以下の3種類ですが、実務上は「公正証書」「自筆証書」の2種類で大半をカバーします。
- 公正証書遺言(公証人が作成)
- 自筆証書遺言(本人が全文自筆)
- 秘密証書遺言(実務ではほぼ使われない)
公正証書遺言と自筆証書遺言を比較
| 項目 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
|---|---|---|
| 作成場所 | 公証役場 | 自宅などどこでも |
| 作成者 | 公証人 | 本人 |
| 証人 | 2名必要 | 不要 |
| 費用 | 数万円〜十数万円 | 0円(法務局保管は3,900円) |
| 手間 | 多い(役場訪問・書類準備) | 少ない(自宅で完結) |
| 無効リスク | ほぼゼロ | 高い(形式不備で無効例多数) |
| 検認 | 不要 | 必要(家裁で1〜2ヶ月) |
| 紛失・改ざん | なし(原本は公証役場保管) | リスクあり(法務局保管で回避可) |
| 相続人の負担 | 小 | 大(検認手続き) |
| 書き換え | 再作成で費用発生 | いつでも自由に書き換え可 |
公正証書遺言のメリット・デメリット
メリット
-
無効になるリスクがほぼゼロ 公証人という法律の専門家が作成するため、形式的な不備で無効になることはまずありません。
-
検認不要 亡くなった後、すぐに相続手続きに使えます。自筆の場合に必要な「検認」(家裁での手続き・1〜2ヶ月)が不要です。
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原本が公証役場に保管される 紛失・改ざん・隠匿のリスクがありません。万一手元の写しをなくしても、全国の公証役場から検索可能。
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字が書けなくても作成可能 病気や高齢で自筆が困難な方でも、口頭で内容を伝えれば作成可能です。
デメリット
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費用がかかる 財産の評価額に応じて、数万円〜十数万円の公証人手数料が必要(後述)。
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証人2名の立ち会いが必要 信頼できる人に依頼するか、公証役場の紹介(有料・1名6,000円程度)を利用。
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公証役場への訪問が必要 病気で動けない場合は、公証人に自宅や病院へ来てもらう「出張」も可能(費用増)。
公正証書遺言の費用目安
財産の価額に応じた手数料(2025年時点)の目安:
| 目的の価額 | 手数料 |
|---|---|
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 500万円以下 | 11,000円 |
| 1,000万円以下 | 17,000円 |
| 3,000万円以下 | 23,000円 |
| 5,000万円以下 | 29,000円 |
| 1億円以下 | 43,000円 |
相続人ごとに個別計算される点と、遺言手数料11,000円、書類作成費用なども加算されるため、総額は数万円〜十数万円になります。
自筆証書遺言のメリット・デメリット
メリット
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費用ゼロ 紙とペンがあれば作成可能。
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思い立った時にすぐ作れる 自宅で誰にも知られず作成できます。
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何度でも書き換え可能 新しいものが最新のものとして効力を持つため、気持ちの変化に合わせて更新できます。
デメリット
-
形式不備で無効になるケースが多い 全文自筆・日付・氏名・押印——これらのどれか一つでも欠けると無効。「○年○月吉日」のような曖昧な日付もNG。
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検認が必要 亡くなった後、家庭裁判所に提出して検認を受ける必要があります。相続人全員の戸籍を集めるなど、1〜2ヶ月を要する負担があります。
-
紛失・改ざん・隠匿のリスク 特に相続人の一人が見つけて隠す、書き換えるといったトラブルが起こりうる。
法務局保管制度で一部解決
2020年から始まった 「自筆証書遺言書保管制度」 を使うと、以下のメリットが得られます。
- 3,900円の手数料で法務局に原本を預けられる
- 検認不要になる
- 紛失・改ざんリスク解消
- 死亡時に相続人へ通知してもらえる(事前指定者)
ただし、形式不備のチェックは外形的な確認のみで、法的有効性まで保証されるわけではない点に注意。
自筆証書遺言の書き方の基本ルール
必須要件:
-
全文を自筆で書く
- ワープロ・パソコン入力は無効(ただし財産目録のみ例外)
- 2019年改正で、財産目録だけはパソコン作成・通帳コピー添付が可能に
-
日付を明記する
- 「令和○年○月○日」または「2026年○月○日」
- 「吉日」など曖昧な日付は無効
-
氏名を書く
- 戸籍上の名前が原則
- 印鑑は実印でなくても可(認印・拇印でも可)
-
押印する
- 認印でも可だが、実印+印鑑証明があるとより確実
-
訂正は法的な方式で行う
- 訂正箇所に押印・訂正内容を明記。不備があれば訂正全部が無効に。
- 書き直しが安全
ケース別:どちらを選ぶべきか
公正証書遺言を強く推奨するケース
- 財産総額が1,000万円以上
- 相続人が3人以上いる
- 不動産を含む
- 再婚家庭・前妻の子がいる
- 相続人間に関係の悪化の懸念がある
- 事実婚・同性パートナーに遺したい(事実婚・同性パートナーに備える)
- 高齢・病気で字を書くのが困難
自筆証書遺言でも十分なケース
- 財産総額が比較的少額
- 相続人が配偶者と子1人だけなど関係者が少ない
- 「特定の物品だけ誰かに」といったシンプルな希望のみ
- とりあえず書いておきたい(後日、公正証書化も可能)
ただし、この場合も法務局保管制度の利用をセットで検討するのが安全です。
遺言書でできないこと
- 生前の贈与や契約の取り消し(遺言書は死後のことのみ)
- 遺留分の完全排除(一定の相続人には最低保証があります)
- 負債(借金)の指定(遺言で「長男が負債を引き継ぐ」と書いても、債権者には効力なし)
- 介護や扶養の指定(別途「扶養契約」が必要)
よくあるご質問(FAQ)
Q. 遺言書は何歳から書けますか?
A. 満15歳以上から作成できます(民法961条)。法律的には若いうちから書けますが、財産や家族構成が安定してくる50〜60代からの作成が現実的です。早めに書いても、状況変化に合わせて何度でも書き直せます。
Q. 遺言書は何度書き直しても良いですか?
A. 何度でも可能です。日付の新しいものが有効になります。公正証書遺言の場合も、新たに作成すれば前のものは失効。**ライフイベント(結婚・出産・離婚・再婚・財産の変動)**ごとに見直すのが理想です。
Q. 遺言書で配偶者に全財産を残すことはできますか?
A. 他の法定相続人(子・親)がいる場合、遺留分という最低保証があります。遺言で「全額配偶者に」と書いても、遺留分の請求をされると一部は子や親に渡ります。兄弟姉妹には遺留分がないので、子・親がいない場合は遺言次第で全額配偶者に残せます。
Q. 遺言執行者は指定すべきですか?
A. 強く推奨します。遺言執行者は、遺言書の内容を実現する責任者で、金融機関での手続きや不動産の名義変更を単独で行えます。指定なしだと、相続人全員の同意が必要になり手間が増えます。信頼できる相続人、または司法書士・弁護士を指定するのが一般的。
Q. 秘密証書遺言も考えるべきですか?
A. 実務上ほぼ使われていません。公証人が存在を証明するだけで内容は確認しないため、自筆証書同様に形式不備で無効リスクがあり、かつ費用もかかる中途半端な選択肢です。「公正証書 or 自筆証書+法務局保管」の二択で検討しましょう。
まとめ
遺言書は「書いておいた方が良い」というより、相続人がいる方なら書くべきものです。金額の大小に関わらず、遺言書があるだけで、残されるご家族の手続き負担と争族リスクが大きく減ります。
費用をかけられる方は公正証書遺言、まず始めたい方は自筆証書遺言+法務局保管から——どちらも有効な選択肢です。
ご自身の終活全体の整え方は、自分の終活|家族に迷惑をかけないための準備 にまとめていますので、あわせてご確認ください。