夫婦で話しておくお金のこと|遺族年金・口座凍結・配偶者居住権ガイド
はじめに
「お金の話は、落ち着いてから」——多くのご夫婦が後回しにしてしまうテーマです。しかし、配偶者の「その時」が訪れると、生活費の支払いから年金の切り替えまで、待ったなしの対応が必要になります。
特に問題になりやすいのが、銀行口座の凍結、遺族年金の請求、そして住まいの行方の3つ。これらは「知っているか・準備があるか」で、残される側の生活の安定が大きく変わります。
この記事では、配偶者が元気なうちに、二人で話しておきたいお金の7項目を解説します。
ポイント1. 銀行口座はいつ凍結されるのか
凍結のタイミング
銀行は、名義人の死亡を把握した時点で口座を凍結します。具体的には以下のきっかけがあります。
- 家族が銀行に死亡を通知する
- 新聞の訃報欄に掲載される
- 銀行員が葬儀の案内を見る
死亡届の提出だけでは自動凍結されません(役所と銀行は直接連携していない)。しかし、いずれどこかで必ず凍結されると考えておくべきです。
凍結されると何が困るのか
- 公共料金・家賃の引き落とし不能
- クレジットカードの引き落とし不能
- ATMでの引き出し不可
- 年金の振込口座だった場合、新しい口座の届出が必要
配偶者名義の口座に、最低2〜3ヶ月分の生活費を移しておくのが、二人でできる最も実践的な備えです。
仮払い制度
2019年の民法改正で、一定額は家庭裁判所を通さず引き出せる制度ができました。
- 1金融機関あたりの上限:150万円
- または「預貯金残高 × 法定相続分 × 1/3」のいずれか低い額
葬儀費用や当面の生活費として活用できます。
ポイント2. 遺族年金の受給要件と金額
遺族基礎年金(主に国民年金)
子のある配偶者、または子が対象。金額の目安は以下の通り(2025年度概算)。
- 基本額:年額約81万円
- 子の加算:1〜2人目は年約23万円/人、3人目以降は約7.8万円/人
子が18歳到達年度の末日を過ぎると、受給資格を失う点に注意。
遺族厚生年金(厚生年金加入者)
配偶者・子・父母・孫・祖父母(順位あり)が対象。金額は死亡した方の厚生年金の4分の3が基本。
年金は「請求しないともらえない」
重要な点として、遺族年金は自動的に支給されません。年金事務所または街角の年金相談センターで請求が必要です。請求が遅れても5年以内なら遡及できますが、早めの手続きが安心。
ねんきんネットで、現在の加入状況から遺族年金額の試算ができます。二人で一度見てみましょう。
ポイント3. 配偶者居住権とは
2020年4月施行の新制度で、配偶者が自宅に住み続けられる権利を遺産分割で確保できる仕組みです。
従来の問題
夫名義の自宅(評価額3,000万円)と預貯金(2,000万円)がある場合、妻の法定相続分は1/2 = 2,500万円。
「家に住みたいから家を相続」→ 妻:家3,000万円、預貯金ゼロで生活困窮 「預貯金も欲しい」→ 家は子が相続、妻は住まいを失うリスク
配偶者居住権の仕組み
- 所有権(3,000万円相当)を子が相続
- 居住権(例えば1,500万円相当)を妻が取得
- 残り1,500万円 + 預貯金2,000万円のうちの一部 → 妻も預貯金を相続
住まいを確保しつつ、生活資金も相続できる画期的な制度です。
設定には遺産分割協議または遺言書が必要。司法書士に相談しながら進めるのが確実です。
ポイント4. 相続税の配偶者控除(1.6億円非課税枠)
配偶者は、法定相続分または1億6千万円のいずれか多い額まで、相続税が非課税です。
注意:二次相続で逆に増税に
「配偶者が全部相続 → 非課税」としたくなりますが、**その配偶者が将来亡くなる「二次相続」**では、子だけが相続人になり、非課税枠がなくなります。
一次・二次を通算すると、子にも適度に分けた方が総税額が減ることが多く、税理士によるシミュレーションが推奨されます。
ポイント5. 家計全体の「見える化」
お互いの口座・保険・投資・ローンを一覧にするだけで、いざという時の手続きが劇的に楽になります。
夫婦マネー会議(年1回) の項目例:
- 銀行口座一覧(メイン・サブ・ゆうちょ・ネット銀行)
- 証券口座・投資信託
- 生命保険・医療保険(受取人確認!)
- 住宅ローン残債(団信の有無)
- 貸金庫の有無
旧姓のまま保険の受取人になっているケースが非常に多いので、この機会に要確認。
ポイント6. 住宅ローンと団体信用生命保険
住宅ローンを組んでいる場合、**団体信用生命保険(団信)**の契約状況が重要。
- 団信あり:契約者死亡でローン残債がゼロに → 残された配偶者は住み続けられる
- 団信なし:ローンはそのまま残る → 残された配偶者が支払い継続
ペアローンの場合は、それぞれ個別に団信契約しているのが通常。どちらが亡くなっても「自分の分しか消えない」ので、残った半分は支払い続けます。
特約の確認も
- がん団信:がん診断で残債ゼロ(保険料高め)
- 3大疾病特約:がん・脳卒中・急性心筋梗塞で残債ゼロ
契約時と状況が変わっているかも。夫婦で保険証券を再確認を。
ポイント7. どちらが先かは分からない、だから両方向で準備
「夫のほうが先に逝くだろう」と思い込みがちですが、統計的には7割程度の確率で、実際にはどちらが先かは分かりません。
だからこそ、お互いに備えることが重要です。
- 両方のエンディングノートを作成
- 両方の財産目録を作成
- 両方の意思(延命治療・葬儀の希望)を確認
「お互いに準備している」という事実自体が、万一の時の精神的な支えになります。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 内縁関係(事実婚)でも遺族年金はもらえますか?
A. 要件を満たせば可能です。同居の事実・生計の共有・ほかに法律婚の配偶者がいないこと、などが条件。住民票の続柄が「夫(未届)」「妻(未届)」の記載や、公共料金・保険の受取人指定などで関係性を立証します。同性パートナーは現行法では遺族年金受給は認められていません(事実婚・同性パートナーに備える 参照)。
Q. 子どもがいない夫婦の場合、相続人は誰になりますか?
A. 配偶者のほか、親(第二順位)または兄弟姉妹(第三順位)が相続人になります。配偶者の取り分は、親がいる場合は2/3、兄弟姉妹の場合は3/4。子がいない夫婦ほど遺言書が重要です。なしだと、疎遠な親族との話し合いが必要になる場合があります。
Q. 配偶者の銀行口座の存在すら把握していない場合は?
A. 通帳が見つからなくても、「相続人が照会」すれば金融機関は回答する義務があります(相続人全員の同意書と戸籍謄本が必要)。全国銀行協会の「相続預金の照会」や、ゆうちょ銀行の「貯金等照会」で、どの金融機関に口座があるかを調べることも可能ですが、手間がかかるため、生前に夫婦で一覧化しておくのが最良です。
Q. 配偶者居住権は必ず使った方が良いですか?
A. ケースバイケースです。子との関係が良好で、家の売却も含めて柔軟に検討できるなら、配偶者が所有権ごと相続したほうがシンプル。逆に、再婚家庭や子との関係が複雑な場合は居住権が有効。司法書士・税理士と相談して決めましょう。
Q. 遺言書は夫婦それぞれに書くべきですか?
A. はい、両方書くのが理想です。「どちらが先か」は誰にも分からないため、お互いに備えておくのが安全。公正証書遺言なら費用数万円〜十数万円で、争族リスクを大幅に下げられます。
まとめ
配偶者の「その時」に直撃するのは、住まいと生活資金です。遺族年金・口座凍結・配偶者居住権の3つを夫婦で話し合っておくだけで、残される側の生活の安定が大きく変わります。
夫婦で整えておける備え全体の一覧は、配偶者に備える|夫婦で整えておく7つの準備 でご確認いただけます。